新カタカナを作ろう

本項では,清濁直拗別ローマ字本位配列によるカタカナ表(新カタカナ表)に基づいて,新カタカナ表を補完していく.たとえば,新カタカナ表のサ行イ段は,現在「スィ」となっているが,/si/を独自に表現している2バイト文字を新たに考える.すると,Osim監督をオシム監督と書くことなく,Osim監督の母国語に近い発音で彼の名前を呼ぶことができる.むろん,オスィム監督あるいはズィーコ(ジーコ)監督などと,書く習慣を広めていくことで対応するのも有力な手段であるが,この場合,1音を表すのに2バイト文字を2つ使うので,効率が良くない.たかが,それくらいと思うかもしれないが,フィフティ・フィフティ(半分半分)などで考えると,「フィ」や「ティ」を1文字で表せると便利である.「フィフティ(10バイト)」が6バイトとなり,書く量がほぼ半減する.

また,/l/を子音とする行を現在は慣習的に「ラリルレロ」としているが,それらを表記できるカタカナがあれば便利である.たとえば,子どものころからよく聞く地名である「ロンドン」が,LondonなのかRondonなのか最初は迷うだろう.そのとき,/lo/に相当するカタカナを用いて書き分けて,発音もしっかり読み分ければ,英語を学び出して迷うこともなくなるだろう./r//l/かで迷った経験は,日本人ならば誰でもあるだろう.

日本語は,アルファベットが多い.ひらがなとカタカナの50音(実際はそれより少ない)が個別の文字形であるため,合わせて90個以上もの文字の形を覚えなくてはいけない.一方で,ローマ字は,AからZまで26個しかなく,大文字と小文字を合わせても52個覚えるだけでよい.しかも,日本語よりも多くの音を表現できる.これが,日本語のアルファベットが,音素の解像度が低いと言われるゆえんである.たくさんの文字がありながら,表現できる音の種類が,それほど多くないという特徴がある.

これは,日本語が劣っているのではなく,日本語の特徴である.そもそも日本語のアルファベットで表現できない音は,あまり聞いていて心地よいものではない./v//th/など,唇や舌を噛まないと出てこない音は,あまり美しくない(個人的感想).日本語のような開音節(言葉が母音で終わる)言語は,のびやかに聞こえてくるので聞心地が良い.イタリア語やスペイン語も開音節の言葉が多い.ただし,どの国の人も母国語は美しいと思っているだろうから,このような美的感覚に関する議論は生産的でない.

現在ですら,90個以上の文字を覚えるのに苦労するのに,新しく文字を作ることで覚えることがさらに大変になるじゃないか,という意見が考えられる.それを回避するのに,ハングル文字のような効率の良い文字体系をイチから作り上げるということも考えられる.しかし,過去の日本語使用者との共通言語である現在の日本語を大胆に変えることは,過去の知識人や自分の先祖の日記など,過去の偉大な知的財産(書物)を直接読むことができなくなり,それは過去との断絶を招く.したがって,断絶を起こさないためにも,また,我々の先祖が,時間をかけて作り上げてきた文字体系に敬意を払うという意味でも,大胆な変更はすべきではない.したがって,足りないと思われる,あるいは,あったら便利だな,と思うようなカタカナ文字を必要な分だけ作っていくことで,現在のカタカナ体系を少しだけ豊かにするという対処が一番良いと考えている.確かに,それによって覚える文字が増えるのはしんどいことではあるが,我々日本人は,それ以上の数の漢字を覚えていくので,新しいカタカナが10個や20個増えても覚える労力に大差はない.

作成方針

新しいカタカナを作る際に,音に対応して新しいカタカナを単に思いつくままに作っていけばよいというわけではない.我々の先祖が,カタカナを作り上げてきた過程をリスペクトしたい.我々の先祖は,カタカナを作る際に,漢字の一部分を取り出して,その形を簡易化あるいは抽象化していくことで時間をかけてカタカナを練り上げてきた.したがって,今回も新しいカタカナを作る際には適切な漢字を参考にして作ったらよいだろう.それは,我々の先祖が,カタカナを作り上げた過程をトレースすることにもなり,時空を超えて彼らと少しばかりでも感情の交流ができるような感じがして心地がよい.

適切な漢字を参考にするとは,具体的には,現代中国語の発音体系である漢語拼音字母,略して拼音(ピンイン)において,該当する発音をもつ(日本)漢字を参考にする.ここでは,ピンインは,中国語のローマ字表記と思えばよい.たとえば,/si/に相当する新しいカタカナを作成する際には,「巳」という漢字をモデルにした.これは,「巳」という漢字が,現代中国語では,/si/とローマ字表記するからである.ただし,中国語で/si/と表記するからといって,我々には必ずしも「スィ」と聞こえない場合もある.中国人が「巳」と発音すると,我々にはくぐもった「スー」と聞こえる.また,ピンインを参考に漢字を決定するが,現代の中国漢字は,簡素化されている(簡体字という)ので,モデルとなる漢字は基本的に日本漢字とした.つまり,上記の流れを整理すると,「ピンインを参考に現代中国漢字(簡体字)からモデルを選定」→「当該の簡体字に対応する日本漢字をモデルとして採用」→「カタカナに抽象化」という流れを,カタカナ作成の基本方針とした.

究極的には,我々の祖先が,古代中国語の一部をカタカナに変形していったように,古代中国語において/si/と発音される字から新しいカタカナを作りたい.これを行うことができれば,我々の祖先が行ったタスクにより近い形でトレースすることができるが,資料不足(力不足)により,モデルとした漢字は現代中国語とそのピンインとする.

その他として,画数が3以下であることを心がけた.通常のカタカナで4画なのは,ネ・ホ・ヰの3つのみであり,1画のノ・ヘ・フ・レを除けば,ほとんどが2画か3画である.したがって,画数が3以下,多くても4以下であることが重要である.また,作成する際にはカタカナの形の典型性を大事にした.カタカナっぽくない字を作成して新たに50音表の一員として加えることは,50音表の一体感・統一感を乱すことになり,それは,もはや母国語に対する冒涜と言ってよい.作成したカタカナと従来のカタカナを,日本語のわからない外国人が見比べたときに,同種のアルファベットであると認識してしまうような新しいカタカナ作りを理想として心掛けた.

作成環境

ソフトウェア

フォント

Microsoft Windows 外字エディタ

明朝体(のつもり)